Sobolevの不等式
前回の記事ではHardy-Littlewood-Sobolevの不等式を示しました. 今回は前回の不等式とポアソン方程式のよく知られた事実を使ってSobolevの不等式というものを証明していきたいと思います. Sobolevの不等式はSobolev空間と空間やヘルダー空間の包含関係を把握するのに必要な不等式です.
[定義] (Newtonポテンシャル)
のとき
,
のとき
とおく. をNewtonポテンシャルといい, 原点以外で を満たす ( は単位球面の面積である).
[定理] (Sobolevの不等式)
とする. 実数 を で定める. このとき,
が成り立つ.
[証明]
Case1: .
とおく (ただし はNewtonポテンシャルである). 次の事実を使う.
[事実]:ポアソン方程式の古典解の存在
とする. 任意の に対して,
は級で, を満たす.
この事実と積分記号下の微分定理[非線形偏微分方程式, 共立出版]により
となる. ここでNewtonポテンシャルの評価で
が成り立つので, コーシーシュワルツの不等式とRieszポテンシャル を用いて
が成り立つ. ここでHardy-Littlewood-Sobolevの不等式を用いると,
が成り立つ. ( の場合の証明終)
Case2: .
各 について
となるので,
最後の行で一般化ヘルダーの不等式を用いた. 次に について積分すると
となる. 以下同様に について積分していくと
となる. ここで両辺を 乗すると
となる. 上から2行目の不等式は相加平均・相乗平均の不等式, 最後の行の不等式は和をベクトルの内積とみてコーシーシュワルツの不等式を用いた. (証明終)
Hardy-Littlewood-Sobolevの不等式
急にSobolev空間の記事を書きたくなりました。主な参考文献はEvansのPDEと儀我儀我非線形偏微分方程式です。
[定理](一般化ヤングの不等式)
が を満たすとする. このとき
が成り立つ.
は弱空間(またはローレンツ空間)といいます. これについての詳細は今後ブログで書きます. この一般化ヤングの不等式を示すにはMarcinkiewiczの補間定理などが必要になりますがここでは上記の不等式を認めます.
[定理](Hardy-Littlewood-Sobolevの不等式)
とする. が
かつ
を満たすとする. このとき, 任意の に対して,
が成り立つ.
ここで であり, これを のRieszポテンシャルといいます. ポアソン方程式を勉強するとこいつがよく出てきます.
[証明]
であるので, 一般化Youngの不等式より かつ に対して
///
Hallの定理とその応用
[Def]近傍
グラフの任意の点集合に対して、のどれかの点に隣接する点の全体をにおけるの近傍と呼び、やと書く。
を2部分割を持つ2部グラフとするとき、の点がすべて飽和されるようなのマッチングを見つけることは応用上重要である。
[Thm]Hallの定理
を2部分割を持つ2部グラフとする。
はの点を全て飽和するマッチングを持つ任意のに対して、
(証明)
()
の全ての点を飽和するマッチングをとする。
任意のを考える。
を飽和するの辺を集めた集合をとすると、
.
が飽和するの頂点は全ての元である。
よって、.
つまり、. ■
()
を部集合に持つ2部グラフでを満たすものをとする。
そこではの点を全て飽和するマッチングを持たないと仮定して矛盾を導く。
をの最大マッチングとする。
仮定により、に属する非飽和点が存在する。
そこで、を交互道によって、に連結するような点の全体の集合とする。
は最大マッチングだから、はの中で唯一の非飽和点である。(もし、そうでないとすると増加道が存在することになりの最大性に矛盾。)
とおく。
明らかにの点はの下での点とマッチングされているから
であり、が成り立つ。
のどの点も交互道によりに連結されているので.
よってが成り立つ。
よってとなって仮定に矛盾。 ■
[Prob]Hallの定理を応用した面白い問題
トランプのカード52枚を4枚ずつ13個のグループへ任意に分けた時、各グループから1枚ずつカードをうまく選ぶと、A,2,3,4,5,6,7,8,9,10,J,Q,Kを1枚ずつ取り出せる。
(解答)
グループに対応する頂点の集合
カードのランクに対応する頂点の集合
とおく。
の各点(グループのこと)に対して、その点とその点に対応するグループに属するカードのランクに対応するの点を辺で結ぶ。そうでないとき辺を引かない。
この操作により2部グラフができる。
を考える。
はに属するグループに含まれるカードのランクに対応する。
に属するグループに含まれるカードの総数は
に対応するランクのカードの総数は
と仮定する。
個のグループをに対応するランクのカードだけでつくれない。
実際個のグループをつくるには枚のカードが必要であるが、この仮定のもとでは枚のカードしか用意できないためカードが足りなくなる。
よって.
つまりHallの定理にある条件が成り立つのでを飽和するマッチングが存在する。
そこから各グループからどのカードを選べばよいかわかる。■
マッチング
単純無向グラフを考える。
[Def](マッチング)
のどの2辺も互いに隣接しないとき、をのマッチングという。
マッチングに属する辺の両端点はでマッチングされているという。
点がマッチングに属する辺の端点のとき、はを飽和しているといい、を飽和点という。
の全ての点が飽和点のときマッチングは完全マッチングという。
となるマッチングが存在しないとき、を最大マッチングという。
[Def](交互道)
をのマッチングとする。
に関する交互道とはにおける道での辺との辺が交互に現れるもの。
[Def](増加道)
に関する増加道とは、に関する交互道でとが非飽和なものである。
[Thm](Berge,1957)
がの最大マッチング に関する増加道が存在しない。
[証明]
()
対偶:
に関する増加道が存在は最大マッチングでない
を示す。
に関する増加道があると仮定し、を増加道とする。
辺はの辺であり、これらをから取り除き、新たに辺を加えたものをとする。
このとき交互道の定義からがマッチングであることがすぐにわかる。
さらにからが最大マッチングでないことがわかる。
()
対偶:
が最大マッチングでないに関する増加道が存在
を示す。
がの最大マッチングでないとする。
をの最大マッチングとする。
つまりが成り立つ。
グラフを考える。(△は対称差であり)
このときの各点の次数は高々2である。
よっての各連結成分は孤立点かとの辺を交互にとる偶サイクルかとの辺が交互に現れる道である。
偶サイクルにおいてそれに含まれるの辺の数との辺の数は等しい。
より、(の辺の数)<(の辺の数)を満たすの道が存在する。このときの始まりも終わりもの辺になる。
つまりの始点と終点はでは飽和であるが、では非飽和である。
よってはのに関する増加道である。■
最短距離の起こる回数
[Thm]
平面上に()個の点が与えられたとき、最短距離は個より多くは起こりえない。
(証明)
最短距離をとおく。
点の個数のグラフGを次のように定める。
「Gの頂点集合をとする。また2点,間の距離がのときに限りそれら2点を結ぶ。この操作により得られた線分の集合をGの辺集合と定める。」
[Claim]
Gは平面グラフである。
(proof of Claim)
Gが平面グラフでないとする。
つまり2辺,が点で交わっているとする。
三角不等式より
.
よって
つまり
これより,の少なくとも一方は未満である。
これはの定義に矛盾する。■
Claimにより、Gが単純平面グラフであることがわかる。
よって
↑により点の個数の平面グラフGの辺の本数、つまり最短距離が起こる回数は以下である。■
うまいことグラフを定義して特定の距離が起こる回数を、定義したグラフの辺数に帰着させてるところが面白いですよね。
オイラーの公式の応用
[Def]平面グラフ
グラフが平面グラフであるとは、辺が交わることなく平面(または2次元球面)上に描くことができるグラフのことである。
■オイラーの公式■
Gが連結平面グラフで、個の頂点、個の辺、個の面を持てば、次の関係式が成り立つ。
[離散幾何でしばしば使われる命題]
Gを空でない単純(多重辺とループがない)連結平面グラフとする。このとき以下が成り立つ。
(1) Gは高々5次の頂点を持つ。
(2)Gの辺の数は高々である。
(記号の注意)
面とは個の辺で囲まれた面のこととする。
を面の数とする。
をグラフGにおける次数の頂点の数とする。
(証明)
Gの頂点数を,辺数を,面数をとする。
Gは単純グラフだから、あらゆる面は少なくとも3つの辺を持つ。
が得られ、 となる。
ここで、もし全ての頂点の次数が少なくとも6であれば
が得られ、となる。
2つの不等式をあわせると、
つまりが得られるが、これはオイラーの公式に矛盾する。■
(2) (1)よりが得られていたので、オイラーの公式から
となる。■
距離の出現回数
凸包の定義
点集合Pの凸包とは、Pの点を全て含む極小の凸集合のことである。
(イメージ的にはPの各点を板に打ち付けた釘とみなした時、全ての釘を含むように外側から輪ゴムを掛けてできる凸多角形がPの凸包である。)
定理:
平面上にn個の点(n≧3)が与えられたとき、
個以上の異なる値を持つ距離が存在する。
(証明)
Case1:が同一直線上にある
定理の成立は明らか。
Case2:Case1以外
点集合P={}の凸包をとり、必要に応じて頂点の記号を交換することにより、を凸包上の1点と仮定してもよい。
このとき、凸包の頂点での内角は180°未満である。
からへのn-1個の距離を考える。これらの距離のうち種類の異なる距離が起き、
各()がそれぞれ回起きると仮定すると、
が成り立つ。
のうち一番大きな値のものをとすると、
となるので、
を得る。
ここでN回起きる距離をrとし、を中心とする半径rの円を
で表す。
の円周上にはN個の点が存在して、それらの点をとする。頂点での凸包の内角が180°未満なので、N個の点はの半円周上にある。よって、N-1個の距離はすべて異なる。
このように{}と{}()の2つの実数の集合を考えると、それぞれちょうど個とN-1個の異なる値を含む。
与えられたすべての点の配置において、異なる距離の起きる回数をSおく。
上記の議論より
{,}である。
nを固定したとき、Nを動かして左辺を下から評価すると定理の不等式を得る。■
初めてのブログ投稿でした。TeXに慣れていかないと。
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